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第五夜 ハーディング ファウスト コンセルトヘボウ

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いよいよ、私のルツェルン音楽祭の最後の夜を迎えることになりました。当初は、ファウストはハイティンクのヨーロッパ室内楽団のメンデルスゾーンを聴いたので、この日は一旦、日本に戻るつもりでした。そして、仕事で、また九月に戻ってくる予定でした。その仕事の予定が、前倒しになり二週間連続でヨーロッパにいることになりました。いつもは、国内での予定もあり、大概一週間(八日間)で、必ず戻ってくるのですが、今回のような長期滞在は初めてのことです。
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その為、金曜日のこのコンサートを聴けることになりました。後から買った券だったので、今日は二階席(実質は三階席)の右のコーナーです。正直、昨晩のブルックナーをここで聴きたかったです。そして、イザベル・ファウストのヴァイオリン協奏曲は、昨日の席が特等でしょう。五回目にしてはじめての遠い席です。会場の響きの感じを掴むのにはもってこいの席でしょう。

このホールは、ステージの比率が大きく、二階から五階までの席は、両脇と一番後ろしかありません。ステージからの距離は近いのですが、高さがあります。このホールは、この上にまだ二層あります。その四階席(実質は五階席)はかなり上まで席が伸びています。歌劇場の天井桟敷を彷彿とするぐらい遠いのでしょう。

今日のプログラムは、ドヴォルザークの序曲『オテロ』とメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。後半はドヴォルザークの交響曲第八番です。メランコリックな曲ばかりの日ですね。どちらかと言えば、コンセルトヘボウより、バンベルグ交響楽団の得意とする感じです。そのボヘミアのテイストをコンセルトヘボウがどういう風に表現するか楽しみです。

最初の序曲『オテロ』は聴いたことがありませんでした。ケルテスの全集にも入っていないし、クーベリックのレコードでも見つかりませんでした。アバドが入れているのですが、そのCDは持っていません。聴いてみると、やはりドヴォルザークの曲ですね。今日のコンセルトヘボウの音は、昨日のブルックナーとはまったく違う、くすんだ音がしています。ティンパニーの音色がまったく違います。柔らかく暗い音です。木管楽器の響きが、前面に出て来ます。

さて、いよいよ、イザベル・ファウストの登場です。ステージ上に小さく見えます。細かい音のニュアンスは、聞こえないかもしれませんが、オーケストラと一体化した音が期待されます。

先日のモーツァルトとは全く違った音色です。柔らかくメランコリックな感じを聴いたのは、始めてかも知れません。バッハを弾いているときとは、別人のような優しさです。コンセルトヘボウの弦楽器群とのバランスも絶妙です。以前コンセルトヘボウの会場でベルギー国立管弦楽団とリザ・ファーシュトマン のヴァイオリンで、同じ曲を聴いたことがあります。ベルギー派に代表される柔らかい弦楽器の奏法が特徴的でした。また、シャイー・ゲヴァントハウス管弦楽団と五嶋みどりの演奏は見事でした。祈りを捧げるようなみどりさんの演奏とは違いますが、ファウストの演奏も音楽に献身的です。

ただ、遠くなので細かい音のニュアンスは聞こえにくいですね。その代わり、オーケストラに溶け込んでいくさまは良く聞こえました。コンセルトヘボウの美しい木管とファウストの柔らかな響きが解け合い融合します。もしかしてバッハを弾くときとは弦が違うのかとさえ思いました。でも、素晴らしいときは、あっという間に終わります。終楽章の大円団で終わりました。
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今日も幕間の気付け薬は、よく冷えたジントニック。最後の晩なので、じっくりと周りを観察しました。ヨーロッパの社交場としても役割を果たしているのでしょう。毎晩見かける顔も居ます。
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休憩から戻ると、オーケストラは、準備を終えて待っていました。ハーディングが入ってくると、気持ちを落ち着けてすぐにはじまりました。軽快なトランペットが響き、お馴染みのチェロの美しい旋律からはじまります。カラヤンの名演で聴き馴染んでいる曲です。ケルテスもセルでも。新世界より好きです。しかし、バランスや音の強弱や間の取り方の難しい曲ですね。ハーディングの演奏は、丁寧ですが、細かい部分を少し置き去りにしている感じがします。指揮の仕方が、全体の流れを重視している指揮振りです。

可も無し不可も無しと言う印象でした。ヤンソンス時代の緊張感が薄れ、名曲アルバムのような演奏ですね。時代が変わっていく過程の音なのでしょうか?シャイーの時代のコンセルトヘボウには余り興味がありませんでした。そのゲヴァントハウスの17年からの指揮者に、ネルソンが就任するニュースが入ってきました。ボストンと掛け持ちですが、それをより積極的に活かして、ボストン交響楽団とゲヴァントハウスが相互にお互いの都市を訪問しあい、演奏会や市民交流を図るという指揮者を共有する新しい試みがはじまるようです。このハーディングはパリ管弦楽団の音楽監督です。

ガッティがコンセルトヘボウの音楽監督に就任してこのオーケストラがどの様に変わっていくのでしょうか?期待と一抹の不安も感じた今日の演奏会でした。

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これで今回のルツェルンへの夏休みが終わります。あっという間の五日間でした。一人の旅ですから孤独ではありますが、音楽を聴くという行為が極めて個人的な経験である以上、孤独だと言って悲しむ必要は全くありません。自分の部屋で音楽を聴くという行為も同じだし、紀尾井ホールのいつもの席に座っていても同じだからです。

違うのは、表に出るとそこはルツェルン湖。スイスの環境の違いですね。五日間通ったロイス川沿いの同じ道を、歩いてゆっくりと宿に帰りました。何時の日にかまたこの場所に来れるのでしょうか。




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