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Channel: GRFのある部屋
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GRF邸でデコラを聴く

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先週お越しいただいた、Bellwoodさんのご感想が寄せられました。夜は、久しぶりに集合されるご家族サービスのため、めずらしく一滴も飲まないでお帰りになりました。お酒でごまかせなかったので、ご感想を戦々恐々の思いでお待ちしていましたが、DECOLAの魔術に感動されてかえられたご様子に安心しました(笑)。

ジャズ・ファンのあこがれがJBLの《パラゴン》なら、クラシック・ファンのそれは英国デッカの《デコラ》。ともにステレオの左右が一体となった再生装置だが、《パラゴン》はあくまでもスピーカーであり、一方の《デコラ》は、針先からプレーヤー、アンプ、スピーカーまで全てが一体となった究極の電蓄。

それだけにごまかしが利かない。

GRFさんの《デコラ》は、1年半前に聴かせていただいている。3年前に入手して、それを1年以上かけてていねいにレストアして音が鳴り出したその時の感動的なサウンドはなかなか忘れ難い。

《デコラ》の名を広めたのは五味康輔だろう。その『オーディオ巡礼』は、ロンドンのデッカ本社を訪ねて《デコラ》を聴いたいきさつがひとつのクライマックスとなっている。五十畳ぐらいのとてつもなく大きな、天井の高い洋式の応接室で《デコラ》が鳴り出すとウィーン・フィルのフルメンバーが、壁一面に浮かび上がったという。「あんな見事な音の魔術を私は曾て経験したことがない」と、そのマジカルなサウンドの感動を語っているが、無知な私はそれを読んで「ほんとかいな」と思った。それがほんとうであることをGRFさんの部屋で体感し、心底驚いたというわけだ。

実際、デコラ自身はそれほどは大きくないのに音場が部屋の左右いっぱいに拡がり、まるでコーナーに置かれたタンノイGRFが鳴っているかのよう。まさにマジック。モノラルのLPをかけても、中央にふわっとしたごく自然な音場が拡がりハリのある艶っぽい音が、さながらギリシャ彫刻のように立ち上がる。

50年という時間に耐えてきただけに弱みもある。そのひとつが初段管にあったという。今回ついにその初段管をオリジナルの8D8に換えたそうだ。

8D8は、とっくにディスコンになっている稀少なローノイズ管。まだ生産していたときにさる人が英国に100本注文した。ところが、いざ受け取ってみるといずれもノイズで不合格になった。それを聞きつけた東大宇宙研が撥ねられた100本全数を嬉々としてもらい受けて帰っていったというエピソードがある。

それをEF86などの同等管で差し換えると、デコラ本来の音が出ない。8D8もEF86もヒーターはともに6.3Vだが0.15Aと0.2Aと微妙に違う。《デコラ》ではプリ初段のヒーター直流点火回路がEL34のバイアス回路から引かれていて、その電流バランスまでもが微妙に変わってしまうというわけだ。

いざ聴かせていただくと、あのマジカルなサウンドの感動が再びよみがえる。

今回改めて思いを深くしたのは、モノLPをかけたときの自然な立体感。左右に音像が振り分けられないだけであって、前後の奥行き感に不足はなく、それぞれの楽器もよく分離する。なによりスクラッチノイズがまったく無いのが驚き。

そのことがオーケストラのステレオ再生にもつながっている。前回は各パートが持つマッス(量感)の充実を感じたが、今回はその塊(かたまり)にふくらみがあって懐に幅があって深い。

これがデッカ盤ともなるとほんとうによく鳴る。

例のショルティの『指輪』による、ライトモチーフの解説版LPというのを聴かせていただいた。

これが本家本元オリジナルと同じかそれ以上にばりばりと鳴るのだそうだ。実際、その音にはたまげた。ステレオ初期のデッカに感じられた、マッスと切れ込みの鋭さに加えて、ゴッホの絵のタッチのような力強く厚みのあるテクスチュア(触感)を持った群れをなす弦楽合奏群が浮かびあがってくる。そのディテールには、昨今のデジタルやハイエンドにありがちな細かすぎてひ弱な薄さとか微小な針状のざらつきのような痛さがいっさい感じられない。

もっと驚いたのは4トラの再生。

カーネギーホールでのベラフォンテの歌声は、張りがあって艶があって伸びやか。無理にレンジやダイナミックスを拡げず、これだけの自然なライブ感が聴けるのは、やはり劇場用ではない家具としての再生機ならではのもの。私にとっては、今まで聴いた中で間違いなく最高の「カーネギーのベラフォンテ」でした。

コラーロのターンテーブル、ピックアップの接点、アームのガタなど、年老いた《デコラ》のひ弱さ、微妙さがまだ多少残っていそうです。それらにまた手入れが施されると、操作感の向上のみならずその音もさらに進歩するのでしょうか。これ以上よくなるだなんて何だか信じられません。

オーディオ趣味というものの奥深さに思わず歎息を禁じ得ない。そんな思いでした。

Bellwoodさん 丁寧なご感想をありがとうございました。和室のユニコーンでは、同日も最新のPCオーディオのS/N比の追求等をやっているのですが、デコラの様な音の世界を聴くと、音楽再生にかける、奥の深さ、執念、見極め、バランス等々の大事な要素があるのに気づかされます。ご指摘の通り、アームの接点、針圧の再調整等を追い込んでいけば、まだまだ奥が深くなることでしょう。

時々、どこかで共振する振動を突き止め、音を聞きやすくしたいとも考えています。デコラ再生の旅は、今始まったばかりなのかもしれません。先人の知恵を活かしたSPもつくってみたいですね。

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