Quantcast
Channel: GRFのある部屋
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2210

マスターテープをファイル化した音

$
0
0
前回、38/2トラのテープをワンビット5.6mHzでファイル化するお知らせをしましたが、一体全体そのマスターテープグレードの音はどの様な音だと言われる方も多いと思われます。家に来ていただいた方でも、実際にマスターテープのダブを聴かれた方は少なく、音が良いと言われても、その差をなかなか想像がつかないと思います。

私自身、50年以上、一生懸命やってきたオーディオの歴史を、いっぺんに覆されるとは、思いもしませんでした。それほど圧倒的な音の差です。市販のCDの中では、マスターテープの音を忠実に変換しているのは、RCAのLIVING STEREOシリーズの音です。それも、後から豪華版で出された全集や、SACDになっている盤は、もうデジタルマスターが違い、元の音ではなくなっています。最初に出されたバラのCDがいいですね。元のテープの音はとても暖かい音です。

ワンビットの5.6MHzでは、そのアナログテープ本来の柔らかさ、暖かさが再現されます。SACD規格の2.8MHzでは、高域のピークを感じて音が幾分硬質になります。それをクリアー感として感じる装置では、CDより音が良いと言われる所以でしょう。従来は、そのワンビットの音を直接DA変換して聴く手段が限られていましたが、最近はDSDを変換するコンバーターが大分普及してきました。

ワンビットの音をPCMに変換して聴くと、そこにPCM特有の音が加わるのが分かります。よく言えば、メリハリのある、HiFi調な音です。音そのものを聴く、スタジオ録音や、コンソール上で合成され作られた人工的な録音には、大変効果があります。44.1kHz→88.2kHz→176.4kHzと音が繊細になり高解像に聞こえます。但し、昔のテープ速度のように9.5cm→19.5cm→38cm→76cmと高域は伸びていきますが、逆に低域は、薄くなって聞こえます。スーパーツイーターを付けられる方々はCDフォーマットの上限20kHzの再生音では、十全ではないと思われる方の嗜好に合っているのでしょう。

私は、幸いにもまだ高域が聞こえるので、音楽には不要な高域の再生を押さえるようにしています。ほとんどの場合、2ウェイスピーカーの範囲で音楽は充分楽しめるからです。家のSPの中で、スーパーツィターが付いているのは"Consequence"だけです。2ウェイのSPには、88.2KHzのアップサンプリングぐらいが丁度良いのではと思っています。また、44.1KHzと48KHzの間には、20,000Hzのゾーンを越えた余裕があるのか、DATの規格の方が音が自然に聞こえます。もっとも、DATはテープですから、CDの光学サーボ特有の音から逃れられ、その差を感じる所為かもしれません。DATが録音の現場で、38/2トラの代わりに使われたのは、やはり理由があります。90年頃のスタジオでマスターとして使われていたDATを聴くと、これ以上何が必要なのかと思うからです。

そのDATと38/2トラの差は、例えて言うと高性能な、電気機関車と蒸気機関車の差とも言い換えられます。電気モーターの性能と蒸気機関のトルクフルなパワーとの差ですね。一台の大型の機関車で引っ張るより、各車両に分散したモーターで駆動する方が、よりスムーズに力を伝達できるので、乗り心地を考えて電車化していった歴史とどこか似通っています。大排気量の大型蒸気機関車が、長い車両を引っ張り、大陸を疾走するそんなイメージがあります。4トラックは狭軌の列車、2トラックは標準軌の線路とも言えましょう。安定性がまったく違うからです。

その、38/2トラで収録された元の音に限りなく近いマスターダブの音は、ダイナミイクレンジ、音の変化のスピード、低音域の余裕と豊かさが、通常のメディアを圧倒します。最初の音が出た瞬間から、これはダメだ!と思わされるのです。それはクラシックばかりではありません。例えば、ナット・キング・コールのあの低音は一声聴いただけで、だれもが圧倒されるでしょう。

その音を、若干きれいになりますが、ほぼ同じ音で収録できるのが、5.6MHzのDSDです。もちろん、収音より、再生の方が難しいのはどのメディアも同じです。余分な動作をしない、最低限のソフトだけに限定して、電源を余裕を持たせ、演算速度の早い、メモリーを大きく持った専用PCで、再生すると、どんどん音はよくなってい来ます。

アナログレコードの時代は、ダイナミックレンジがないレコードの溝にどの様に、イコライジングして収録するかを競いました。SPからLPに替わったばかりの時代の音は、圧倒的な迫力で、33回転のレコードでも、収納できたという証拠です。でも、それも、モノラルの溝の時です。45/45方式のステレオレコードからは、その迫力有る音はなかなか聴けないようになりました。

しかし、元のテープには、圧倒的な迫力のまま、安定したステレオで収録されています。あたかも、新幹線の車両で、100キロ以下で流しているような余裕が感じられるのです。そのまま、300キロまでスムーズに加速できるからです。以前も書きましたが、日本のJRはいまだに狭軌のままの線路を頑なに使い続けています。福知山の脱線事故が起こっても、本質的な改善はしないまま、誤魔化そうとしています。標準軌なら、あのような急カーブは作らないだろうし、昔の規格のままのその線路を130キロという狂気のスピードでは突っ込まないはずです。

先日、神戸・三宮から大阪に戻るとき、阪急電車の特急に乗りました。踏切の間をノンストップで飛ばしていくのは怖いですが、その乗り心地、左右のブレの無さ、安定性は、JRとは格段に違っていました。首都圏では京浜急行のスピードです。その時、思いました。新快速の右や左に身体を揺らしながら高速で走るのと違って、とても安定感がある、まるで38/2トラみたいな乗り心地だと!先頭に車両にいましたから、次から次へと並んでいる踏切には恐怖を感じましたが、、。

脱線しました。

話を元に戻すと、その蒸気機関車の迫力有る、トルクフルな走りから、走行音を取り除いたのがファイル化したマスターテープの音だという説明で、お解りでしょうか?二階建ての車両に乗り、線路の騒音を無くした、静かで心安らぐ音なのです。メカ的な音から逃れ音に浸れる快感があります。38センチの速度で、大きなリールが回っているのは、まるで蒸気機関車の動輪の動きを見ているようですが、実際には、煙や燃えかすを飛ばし、窓を開けていた人達の眼や鼻に入ります。昔、蒸気機関車が全盛だった頃、停車駅には、大きな水道の洗面台がホームの真ん中にありました。車両の中の人達の顔を洗うためです。テープの状態にも寄りますが、テープの磁性体がとび、程度のよくないテープですと、各楽章ごとに止めて、ヘッドや走行系を掃除しなければなりません。そして、確実にヘッドは摩耗していきます。

しかし、5.6MHzにファイル化された音は、力強さと早さを残して、完全空調されたパノラマ席へと替わるのです。空調のよく効いた、豪華な二階席で、線路のつなぎ目の音も聞こえず、次々と景色が変わっていく、大パノラマ席ですね。





Viewing all articles
Browse latest Browse all 2210

Trending Articles