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Channel: GRFのある部屋
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ベルウッドさんのご感想2 デコラを聴く

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さて…

ジャーマン・フィジックスの「一角獣」に引き込まれて、すっかりのめり込んで聴いてしまい、気がつけばすでに6時間。あわててGRFさんの袖をひいて「デコラを…」と催促してしまいました(笑)。

いよいよデコラをご拝聴。

まずは、持参したLP盤をかたっぱしからかけていただきました。モノばかりですべてが米国盤です。GRFさんの日記では米国盤との相性がよいとのお話があったので張り切って持参。RCA、コロンビア、キャピトル、VOXとレーベルにバラエティを持たせて持参。比較の意味で、唯一、持参したステレオ盤がドイツプレスのデッカ。

聴かせていただくと、独特の音場の拡がりに「ほうっ」というため息ともつかぬ安らかな驚きが胸をついて込み上がってきます。決して帯域やDレンジの広いハイファイではないのですが、実に繊細で上品なたたずまい。上品といっても華美な貴族趣味ではなく、どちらかと言えば落ち着いた知的な品格。絶頂期のオイストラフの美音と技巧がとても冷静で端正なアーティキュレーションで再現。これを聴いてふとハイフェッツはパス。続けてはノバエスのショパン。意外にも肩の力を抜いたような落ち着きを聴かせてくれました。デコラのサウンドは、あえて言えば、多少《スノビッシュ》なサウンド。

感心したのは、キャピトル盤。

アンドレ・ナヴァラのサンサーンスの協奏曲も素晴らしかったのですが、抜群の相性を感じたのはハリウッドSQのチャイコフスキー。そもそも、GRFさんの日記でミルステインの無伴奏が素晴らしかったとのことで、あえて、当該ディスクではなく同じレーベルの別のディスクをそれも2枚持参したのですが、本当に素晴らしい。

ハリウッドSQは、先日の日記でご紹介したLPの指揮者スラットキンのご両親が参画した弦楽四重奏団。まさに、アメリカの豊穣の50年代を思わせるハイファイ録音。そういうと「金ぴか」のハリウッドを連想されてしまいがちですが、この時代のアメリカのもの作りは実に質実剛健で正攻法だったことをいまの日本人は忘れてしまっています。このディスクも、でかける直前に復調なった我がシステムで聴いてそのハイファイ音にびっくりしました。ちなみに、キャピトルの『FULL DIMENSIONAL SOUND』にはこういう謳い文句が書かれています。

“...natural balanced fidelity as in the ORIGINAL, LIVE PERFORMANCE without attenuated high frequencies or booming bass.”

デコラの再生は、その帯域レンジのナチュラルさに巧妙に応えます。実に爽やかで輝かしい、チャイコフスキーの哀感あふれる「アンダンテ・カンタービレ」。私のシステムでは感じさせてしまう「力み」「エキゾチックさ」が上品に抑制され、見事なバランス。デコラ自身は、それほど帯域は広くないはずなのにディスクそのものの帯域の広さはきちんと感じさせて、不思議な得も言われぬ妙なるバランスなのです。

唯一のステレオ盤を聴いてまたびっくり。

音場が部屋の左右いっぱいに拡がり、まるで、コーナーに置かれたタンノイGRFが鳴っているかのような錯覚にさえ陥ります。音場の見事な再現。ただし、直前に聴いたUNICORNのように、部屋いっぱいに音のエネルギーを充溢させてコンセルトヘボウといったリアルな会場へワープしてしまうという感覚とはちょっと違う。何か《テアトル・ド・デコラ》という独自のバーチャルな会場があって、何もかもがそこへ持って行かれるような感じ。究極の電蓄という気がします。

ターンテーブルのフタや、アンプ部のフタを上や左右に拡げていますが、これを閉じてしまうと拡がりが縮んでしまいます。こういうキャビネット職人の巧の技にも喫驚します。デコラの中央内部には宝石のようなカートリッジが並べられています。GRFさんは、ここでも職人技を発揮してモノからステレオへ、適切な音色をさぐりながらカートリッジを選択して、針圧を調整していきます。

持参のLPをひと通り聴いたところで、GRFさん定番の越路吹雪を聴かせていただく。

いつもの日生劇場のライブなのですが、まず、昭和40年代半ばの録音。比較ということで昭和50年代の収録のものにかけ換えていただいた瞬間、「あっ」という思いが…。

「コーちゃん、歳をとったな。」

こんな思いを、レコードを聴いた瞬間にこみ上げてきたのは初めての体験。もちろん声質の変化もあるのでしょうが、何かその芸風に重ねてきた10年ほどの年輪、人生の深まりが醸す芳香のようなものを感じてしまったのです。低音とか高音とか音量の迫力とか、音場とか音像定位、口の大きさがどうとかいう話…、そんなものからふっと浮揚した、芸とか表現とかの高み。あるいは生々しい芸人の肉体や心のあり方とかいった高いステージ。そういう感性の世界まで何気なく踏み込んでくるデコラ。オーディオのひとつの極致と言えるのではないでしょうか。

そのことに思い至って、ふっと背筋を走る熱いものを感じました。

GRFさん、ありがとうございました。

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ベルウッドさん 長文のご感想を書いていただき、本当にありがとうございました。

ユニコーンもデコラもまとものな音が出るまで二年近くが掛かりました。特にユニコーンのあの空間が移動する体験をしていただけたのが、嬉しいです。また、レコードプレーヤーとしての、ほとんど何でもかかるデコラの能力には、ますます驚いています。特にデコラは、まだまだよくなります。プレーヤーの調整や真空管の交換(EF86/6267→8D8)などの調整を行っていきさらなる高みへと期待も高まります。次回、3月予定の椀方さん上京の折りにも是非遊びに来てください。


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