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アントン・ナヌート 紀尾井シンフォニエッタ東京  

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四谷駅からホールまでのアプローチは、紀尾井ホールに行くときの楽しみの一つです。風もなく穏やかに晴れた土曜日の午後、上智大学のグラウンド沿いに植えられた老木の桜の木のつぼみも膨らんできたのではと思わせました。あと一月もすると、この土手はお花見の人達で賑わうのことでしょう。

前日には厳寒の北海道にいたのが信じられないほどの暖かさです。二月も下旬に入るというのに、北海道の寒波は、500本もの鉄道を止めるほどの嵐になりました。鉄道の代わりに借りだした四駆のレンタカーがなければ、一晩立ち往生したことでしょう。高速も除雪作業のため、頻繁に通行止めになっていました。

金曜日の朝の窓から見た風景です。気温はマイナス10度。一晩中吹雪は吹き荒れていました。
雪が降っているときは、マイナス10度ですが、晴れ渡ると放射冷却でマイナス20度まで行くときもあります。人間の感覚は面白いもので、その地方の寒さに対応するのですね。戻ってきたときが二、三時間対応しきれず凄く暑く感じますが、寒さに対してはすぐに反応するようです。よい音はなかなか分からないのですが、悪い音はすぐに分かりますね(笑)。問題はその悪い音にも人は順応するということです。

その意味からでも、定期的に生の演奏会に行って耳のリセットを計らなくてはいけません。しかし、そのリセットした演奏や聞く場所によってもバイアスが掛かることがあるのがややこしくなる原因の一つです。

今日は、紀尾井ホールの会員で購入した演奏会の一つで、スロバキア出身の指揮者のアントン・ナヌートを聴きに行きます。三年ほど前にも振って、オールベートーヴェンプログラムで評判を呼んだそうです。その時のヴァイオリン協奏曲も大変評判よかったそうです。私は全く知りませんでしたが、ナヌートさんは80歳を越えています。世界中のオーケストラを振り歩いていて、200以上のオーケストラを振っているそうです。凄いですね。

プログラムもよく、エグモントに始まり、ジークフリート牧歌、そしてブラームスの交響曲第4番という、職人技が発揮できるプログラムです。当日は指揮者の希望で、スロヴァキアの作曲家のコゴイ(アヴセネク編):弦楽のためのアンダンテ が追加されていました。コンサートマスターは、昨年、ヤンソンスとやってきたバイエルン放送交響楽団のコンマス、アントン・バラホスキーです。これが上手かった。

編成は紀尾井シンフォニエッタとしては最大限の、10型(10・8・6・4・3人)で、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ファゴット2、コントラファゴット1、クラリネット2、オーボエ2、フルート2、打楽器2の構成です。弦楽器は先日の読響の半分ですが、全員がしっかり弾いているので、それほどの差を感じません。これぐらいの規模がブラームスが想定した本来の編成なのでしょう。普段は大編成に埋もれてしまう音の変化がよく聞こえます。

毅然としたベートーベンのエグモンドが立ち上がりました。最近ではめずらしいトスカニーニ型の演奏です。私の記録では、ウィーンで聞いたホルスト・シュタインに近いと感じました。アッチェランドの仕方も似ています。ジョージ・セルの演奏にも通じるスタイルで、私は一気に目が覚めました。紀尾井シンフォニエッタの木管群の名手達もようやく名人ばかりだと解りました。クラリネットも別人のように乗って演奏しています。フルートとオーボエも全くいうことはありません。コンサートマスターの引っ張りが凄いです。コンサートマスターの違いでこうもオケの印象が変わるかと驚きました。

二曲目のスロヴァキアの作曲家の曲は、初めて聞く曲で、正直良くわかりません。丁寧に愛情込めて弾かれているのは解るのですが、しかし、次のジークフリート牧歌の弦楽器の柔らかさに驚きました。こんなに柔らかな音を聞かされるといちころですね。

休憩では、久しぶりのNEXTNEXTさんご夫妻にお会いしました。いつものご常連は昨日来たのでしょうか。一杯赤い気付け薬をいただいてから、待望のブラームスの4番です。昔ムラヴィンスキーで聞いて感銘してから、他にも聞いている筈なのですが、演奏者が思い出せません。それほどムラヴィンスキーが強烈だったのでしょう。しかし、今日の演奏は良いですね〜。オーケストラも全力で応えます。フルートがホールに響き、ホルンも破綻無く空間を満たしていきます。名人ばかりのコントラバスがぐんぐんと鳴っています。低音病患者のわたしには今一人名人が加わり4人体制ならいうことありません。どうしてこの様な演奏が、他のオーケストラも出来ないのでしょうか。

これで曲が終わるのだというぐらい完成された第一楽章が終わっても、すぐにホルンとフルートが早めの主題を奏でます。牧歌的なテーマもインテンポで進んで小気味が良いですね。三楽章は弦楽器のリードがオケを引っ張ります。弦楽器群はそれぞれのパートの音を弾ききっています。第二番的な牧歌的な部分も楽しめました。

でも、圧巻は、三楽章の終わりから参加したトロンボーン群が活躍する第四楽章です。弦楽器の美しい変奏曲が進んでいくと出てくる特徴的なフルートのソロがとてもきれいですね。音色は先日聞いた読響のソリストと同じです。もっとも、今日のフルートは読響の首席ですから当然なのですが。しかし、ここまでまとめ上げているナヌートの技は凄いですね。室内楽団からこれだけの響きが出るのですから。レニングラードやドレスデンでの演奏も聞いてみたかったです。この演奏もCDで出そうです。楽しみですね。

初めての聞いたナヌートの演奏は、私にはとても新鮮でした。二階席のまえでご主人に熱烈な拍手を送っていた奥さんの姿をうしろから見て、幸せなカップルだなと思いました。

暖かな春の日は演奏会が終わった4時頃には、一段と暖かさを増していました。花粉症が襲来する直前の堤防の上をゆっくりと歩いて帰りました。






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