何故でしょう?根拠も無いのですが、私はデコラという名前に憧れがありました。
白州家にあったということでしょうか、それとも五味さんの影響でしょうか?
オーディオを始めた頃から、DECCAレーベルの音味に感銘し、50~60年代の
レコードを通じて、当時のDECCAの技術力に深い感銘を受けていました。また、
電蓄という音の響きに強い郷愁と憧れがあります(笑)そんなこんなで私のオー
ディオ機器はDECCA色というか、デコラに関連深い機器で満たされています。
そんなことを、岡山のオーディオマエストロ詣での際、デコラのオーナーでもあ
る店主の是枝さんとGRFさんと話したような記憶があります。
そこから暫くして目の前にデコラが現れたのが昨年の6月でした。GRFさんのリ
スニングルームに鎮座するデコラは、そこに運び込むこと自体、かなりの苦労と
対価が払われたことは想像にかたくありません。そして、もちろん動作はしませ
ん。長い年月、それこそ60年前の機器ですからレストアが必要です。それ以来、
GRFさんとデコラを味わい尽くそうとの企画が始まり、アンプ類やプレーヤーの
分解から御一緒致しました。
デコラ内部のアンプ類をすべて取り外し、レストアに出します。もちろん是枝さ
んにです。デコラの内部は50年以上と思われるホコリ(誇り?)が何とも言え
ない香りとともに封じ込められていました。その後、スピーカー部だけとなった
デコラに外部からパワーアンプを繋ぎ、出音を確認しましたが、まさしく演奏家
たちがホログラムのように電蓄上に展開します。多くのオーディオ愛好家がデコ
ラ、デコラと騒ぐその理由の片鱗が見えました。まさに夢の再生機器です。

ステレオデコラのスピーカー部は6個のツイーター部と楕円型のウーハー1個が
左右それぞれにあり、そのツイーター部があっちこっちに向いているという逆オ
ルソンの様な、変わったものですが、その出音を聴くと、その設計者(グループ?)
の緻密な設計に納得してしまうほど自然です。そもそも革新的な設計で納得のい
く素晴らしい音のものなどそれほどありません。伝説のデッカツリー、あのキャ
ラメル型のカートリッジ、独特な回路設計、そしてこのスピーカー設計と、当時
のデッカ技術陣の奥深さを封じ込めたのが、このステレオデコラではないでしょ
うか。

その後、プリとパワーアンプ、チューナー部のレストアが完成しました。時間を
見つけて電蓄筐体に納めるべく、回路図と是枝さんの指示タグを見ながら動作確
認用の仮配線で結線し、プレーヤーのレストアがまだの為、外部から音源を入力
して出音を確かめました。オリジナルのアンプ群に戻すと、更にデッカならでは
の煌びやかさと音の拡がり、気品が出てきます。デジタルの音もアナログのよう
に鳴ります。
ここまで来れば、オリジナルのコラーロプレーヤーと、デッカ・インターナショ
ナルアーム、カートリッジのセットでオリジナルのDECCAレコード聴きたいと思
うのは、オーディオマニアの性です(涙)何より持ち主であるGRFさんの思いも
そこにありますので、配線ケーブルなど出来る限り当時のオリジナルを使い、デ
コラを完全復元しようとプレーヤーのレストアを待つことになりました。
その後、プレーヤーのレストアが終わったのですが、お互いに忙しくオリジナル
復元作業がなかなか進みません。やっと今年の11月になって時間が取れました
ので、思い切ってのべ2日間にわたってオリジナル配線に変更する作業を開始し
ました。

まずはアンプ同士の接続から始めますが、レストア後の動作のための仮配線を一
つづつ取り外し、回路図と実体配線の写真を見比べて結線します。パワーアンプ
部2台で1日を使い、もう1日でプリ部、チューナー部の接続を取り替えます。
これは1台1台開腹し、仮配線を一つづつ外しつつ、尾尻なるの配線とにらめっ
こで正しく結線していく作業となります。
同時にGRFさんがコラーロのプレーヤーを復元・結線していきますが、最後の難関がありました。今までは電源部に直接AC配線をして動作確認しておりましたが、GRFさんも書かれている通り、コラーロの上についているONOFFスイッチがこの電蓄を動作させる唯一のスイッチなのです。この配線をオリジナル通りに戻す作業なのですが、今イチ結線方法が分かりません。
もう1点は、電源電圧がイギリス仕様なので230Vであることも事情をややこしくします。アンプ部はさすがにユニバーサル仕様なので100Vから240Vまで複数設定が可能ですが、コラーロの設定が分からず、オリジナルの230Vに昇圧して使う設定にして、分解前の写真とそもそもの構造を検討しながら結線を行います。

デコラはアンプの電源部が特殊で、プリのヒーター電源は、パワー管のカソード
電位から引っ張っている設定で(よってプリのみDCのヒーター)、更にプリ部の
すべての球はヒーターが直列に繋がれているので、キチンと接続しないと動きま
せん。うっかり接続を読み違えて、ACヒーターにしてしまい、最初は音が出ずに
焦りました(笑)あとでその点を思い出し、結線をし直してやっとちゃんと動く
ようになりました。分かってしまえば大したことはないのですが、電源オンにし
たときにターンテーブルが回り出したときは安心しました。
余談になりますが、少々真空管アンプの自作を囓っている私としては、このステ
レオ版デコラの回路図は不思議さ一杯です。通常であれば、フォノイコライザー
部の後にメインボリューム、そしてラインアンプ部と来て、パワーアンプに繋が
るのが普通ですが、デコラではフォノイコ部、ラインアンプ部(トーンコントロー
ルを含む)と来て、それからメインボリューム、そのままパワーアンプに繋がり
ます。
プリ部の増幅率はあまりないことからこのような仕様になっていると思い
ますが、音声増幅の大半をパワーアンプ部がになっているのです。DECCAの技術
者がFFSSの優位性を強くアピールするためのデコラという象徴的な機器に、意味
のない設計は無いと思われますので、「デコラの音の素晴らしさの一翼をこのア
ンプ回路が担っている」といった是枝さんのお話しを伺い、更に感銘を深くしま
した。まさしくその通りだと勝手に思い込んでおります。

まだハムやマイクロフォニックが少し残り、またアームのセッティングやカート
リッジの状態など、完調への作業は続きますが、オリジナルデコラの出音は本当
に美事です。あでやかで暖かみがあり、電蓄上にステージがフォログラフィック
的に拡がります。GRFさんも「デコラではなく、GRFが鳴っているようだ」と嬉し
そうです。
もう少しです。もう少しでデッカの技術陣がFFSSの優位性を訴えるための広告宣伝塔が完調になります。デコラの名に恥じない音にするためには、ハムやマイクロフォニックの駆逐、アームのセッティングやカートリッジの吟味など、最後ののセッティングが必要です。でもここからは持ち主のGRFさんのみに許された楽しみですから、私は余り出しゃばらずに楽しみたいと思います。私の秘蔵盤であるアンセルメ・スイスロマンドの「三角帽子」オリジナル盤が鳴る音を夢見ながら。
Oより