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Channel: GRFのある部屋
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4トラックテープの音とファイル化

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待望のテープレコーダーを買って貰ったのは、中学の頃でした。ご多分に漏れず、英語の勉強になるとか言って買って貰らいました。実際は、テレビ番組やラジオの音、音楽を録音していました。その頃の音楽やテレビの音声の録音したテープが今でもあります。それを聴くとタイムマシンのように五十年も昔の事が思い出します。当時はいろいろな会社から、テープレコーダーが出ていました。二万数千円台の価格が付いていました。お蕎麦やラーメンがまだ35円ぐらいの時ですから、物価は今から比べれば十分の一ぐらいの時代でしょう。その時の二万五千円は、今の価格では大体25万円に当たります。よく親が買ってくれたと今では驚き、また大感謝しています。そのテープレコーダーがオーディオへの道への切っ掛けでした。

当時ですから、4.75、9.5、19センチのスリースピードで、ピンチローラーを動かして切り替えていました。もちろんハーフトラックのモノラルでした。まだこの時代はモノラルの時代だったのです。ステレオのテープレコーダーは、まだあまり普及していなかったし、やはりとても高かったです。テープ代も掛かるので、普段は9.5センチで録っていましたが、贅沢にも倍速の19センチで録ると格段に音が良くなりました。その後カセットが出て来たとき、テープの幅も狭く、速度も4.75センチでしか無いのに、まともの音が出ているのには驚きました。

1959年から62年が中学の時代です。モノラルからステレオへの変換期でした。ステレオレコードが出て来たときは、よく電気屋さんのショールームに聞きに行きました。ステレオの再生ではオープンリールテープの優位性は明らかでしたが、実際にその音の優位性をを聴いた人は少なかったようです。その頃は、実際に聴いて音もテープヒスの多さや歪み等で、それほど感銘出来なかったのも事実です。シャーと鳴り続けるヒス音を聞いてレコードに戻った人も多かったようです。ヒスは、ヘッドの性能に相当左右されます。

何十年も経ってNagraで最初に4トラックテープを聴いたときには、本当に驚きました。ヒスは再生するSPの高域特性にも影響されます。その頃のSPより高域のトランジェントが良くなっているので、いまの方がヒスが少なくなっています。German Physiksの360度に放射するSPではほとんど気になりません。和室のユニコーンは2メーターぐらいの至近距離で聴いていますが、全く問題有りません。

テープのスピードは常に一定です。レコードの様に、内周に行くと線速度が三分の一近くまで落ちる事もありません。テープでいえば、19センチで聴いていた外周部の高音質が、最内周では4.75センチの音質で聴いているようなものです。加えてレコードでは、低い音になると大振幅になるために、低域になると小さな振幅にし、反対に高域になると細かい振幅になるため、拾いにくくなる高域部は、拡大してレコードに刻まれています。それを逆カーブにするのが、イコライザーです。

レコードの場合は、高域を下げるロールオフと低域を持ち上げるとターンオーバーの両方がいります。その上下は40dbも有るのです。その為に、そのイコライザーのダイナミックレンジが、レコードのダイナミックレンジを決めてもいるのです。テープの場合は、その低域を持ちあげるターンオーバーが無く、その意味でも20db余裕が有ることになります。高域のカーブはアメリカの規格であるNABとヨーロッパの規格であるCCIRの二種類があります。実際にはその新旧もあり、幾分複雑にはなりますが、レコードよりはシンプルですね。

私が実際に聴いて、最大の長所は、本当の最低音が、レコードの様に左右合成されてモノラル音になって無く、最低音までしっかりとセパレートされて入っています。その為、ホールの響きやコントラバスの柔らかな深い音が、変形されずそのまま出て来ます。モノラルに合成されたレコードの最低域とステレオのままの入っているテープの最低域は、全く別物世界です。CDの時代になって、何故最初からこれほどまでCDにこだわってきたかは、この自然な低音を聞きたかったからです。

ピッタリと左右・上下の角度が合っているテープの再生は、音が安定して、ダイナミックレンジが広い音を再現します。高域は強調されることはなく、自然な音を奏でるのです。1959年に収録されたハリー・ベラフォンテのカーネギーホールコンサートを聴くと、昨日録音された新鮮さで聴くことが出来ます。ベースの深く・甘い音もアナログ特有の音源です。これを5.6MHzのワンビットに録音してもほとんど同じ音で再現されるのです。同じアナログの音ですね。

しかし、この5.6MHzを2.8MHzに変換するとたちまち音がきつくなります。逆にメリハリがある音ともいえます。高域が勝った音ですね。その音は実はSACDの音です。輪郭がはっきりしています。PCMの音ですと、192KHzの音に近いとも言えましょう。しかし、DSD5.6に比べると音の余裕が少し狭くなります。PCMで聴くと、いわゆるデジタル的な音になるのです。その音では、アナログテープのあの味わいが無くなるのです。DSD5.6MHzになって初めてアナログテープやレコードの味わいが再現出来たといえるのです。

Nagraには、4トラック機はありません。潜水艦に積まれていた特殊な4チャンネル録再機のTIに使用されている二種類の4トラックヘッドが、上から吊すT-Audioと下から支えられる普通のIV-Sのヘッド用に使えるのです。それを通常は同期用の信号を録再するタイムコード用のヘッドのある位置に置き換えます。そうして出力と特性が揃った4トラックテープでの再生は、従来からの4トラックテープの再生音とは異なり、安定しており、ほとんど2トラックでの再生と見間違えるほどです。

その機器で再生した今まで誰も聴いたことの無い次元での4トラックテープの音を、厳密なレベル合わせをして、出だしのタイミング、楽章間のレベルの音の差、ヘッドの汚れの除去等をケアしながらCさんが、DSDへのファイル化を進めてくれているのです。現在、その数は400タイトルを超えました。1950年代からドルビー化された1970年代までの25年間にわたり市販されていました。音楽媒体では最高の音質で収録されています。デジタル時代になって業務用はDATが置き換わりましたが、市販されたテープ媒体のソースはPHILIPSから出ていたdccだけです。dccとCDは同じアルバムが出ていました。その両方を、DSDで録再してみると、光学系のCDとテープのdccの音の差が良くわかります。音質が利便性に負けた例でしょう。

VHSとβの例を見るまでもなく、商業的に成功したものが、必ずしも性能的に勝っていたとは、考えられない事があります。オープンリールテープ、英語ではreel to reel tapeもその例なのかもしれません。紐派の私は、アナログといえば、テープの音が基準になります。その音質をよく知っている身には、アナログレコードの奇跡のような音出しのメカニズムは、驚異でもあり、だからこそ、不安が付きまとうのです。レコード盤の特性に合わされて、低域をコントロールされ、ダイナミックレンジを調整された音ではなく、ストレス無くマスターテープの音をそのまま、縮小して入っている4トラックテープの音は、その高音質な水準に今更の様に驚くのです。

もちろん、2tr/38cmのような、圧倒的なダイナミックレンジや超低域の余裕はありませんが、マスターテープの音程ではなくとも、レコードの音とは一線を課したテープ本来の音を是非、一度は聴いていただきたいと願っています。それを可能にするのが、DSDへのファイル化なのです。個人が所有する音楽媒体を他の媒体に移しても、私的な目的の範囲内で適正に使えば、聴けるわけですから、これからも、DSD化した音源に接するチャンスは、出来たと言うことです。

Cさんのご努力で、適正にファイル化した、4トラックの素晴らしい音は、これで後世まで伝わっていくのではないでしょうか?

この写真は以前、和室の部屋に置いていた頃のテープ棚です。これで、450巻ほどでしょう。現在はこの三倍以上になりました。Cさんも同じぐらい所有されていますから、二人合わせると2000巻を越えているでしょう。2tr/38やDAT、dcc等の他の種類のテープのファイル変換も進めているので、三年かかってファイル化出来た4トラックテープは400巻です。日暮れて道遠しの感はありますが、息のあるうちは続けていかなければなりません。

だんだん千日修行僧見たくなってきました。










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