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マリオ・ブルネロ演奏会

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Bellwoodさんからお誘いを受けて、水曜日はチェロのマリオ・ブルネロの演奏会に行ってきました。宇都宮から帰ってきた次の朝には、また羽田に出かけて、ひとっ飛びして、翌日にはすぐ戻ってきました。さすがに疲れが出て来て、演奏会の夕方には、このまま行ったら演奏会の最中に居眠りをするのではと、強迫概念におそわれました。先週来の風邪は治ったので咳の心配はしていなかったのですが。ご一緒したベイさんは、風邪がようやく直ったところで、演奏会場での咳を心配されて、ずーっとマスクをされていました。演奏が始まると、空調が降りてきて乾燥します。それに咳は敏感に反応するのです。結局咳が出たのは私の方でした(苦笑)。

マリオ・ブルネロの紀尾井ホールでの演奏はとても評判がよく、今回も盛況でした。ベートーヴェンのチェロソナタを二日かかって演奏するというプログラムで、二日目の今日は、チェロソナタの三番、四番、五番が演奏されました。第一部は、モーツァルトの魔笛の主題による7つの変奏曲で、始まった途端に、上等な赤ワインの馥郁とした香りを思い浮かべたほどです。

ワイン好きなわたしとしては、そもそも名前のブルネロときくだけで、トスカーナのワイン、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ(Brunello di Montalcino) を思い浮かべてしまいます。ピエモンテ州のバローロ(Barolo)、バルバレスコ(Barbaresco)と並んでイタリアの3大ワインと言われています。バローロやバルバレスコに比べると、色も香りも濃く、味も芳醇な美味しいワインです。いろいろな料理にも合います。最近は、歳の所為かバローロが中心になってきましたが、少し若い頃は、モンタルチーノのワインを好んで飲んでいました。

モーツァルトの最初の軽妙な音を聞いただけで、赤いワインの色が見えてきたほどです。馥郁とした香りの中に、何重にも味を秘めた第一級の美味しいワインを思い浮かべたほどです。楽器は1600年代製の「マッジーニ」といわれています。甘く、暖かい響きを聴くだけでこの演奏会に来た甲斐があったというべきです。レーピンのグァルネリ・デル・ジェスのように甘い音でした。

ベートーヴェンのチェロソナタ第三番もやわらかな響きから始まり、ロストロポーヴィッチのような楷書書きの演奏ではありません。といって、草書のように崩しているわけではなく、たっぷりと歌っている行書と言うべきか、曲によっては、楷書に近い感じのところもありましたが、やはり色鮮やかで馥郁とした香りというべきでしょう。

第二部の第四番に入ると、第四番はこんな曲だったかしらと訝しげるほど、普段聴いているベートーヴェンとは違い味わいも見えてきました。まったく違う新しいワインが開けられたようです。アダージョに入ると、ベートーヴェンから離れフランス音楽の響きさえ感じられました。聴きながら、このような感じはドビッシーかはたまたフランクかとか、音を追いかけながら、夢想していました。

第5番は、いろいろな曲想が構いまみえて、こんな感じの曲だったかしらのかんが一層深まります。ブルネロというより、年代物のバローロ的な枯淡の味わいも感じも見せてきます。しかし、フーガの展開が始まると、世界は一変して、深く、広く、広がり、曲を追いかけていきます。その世界はどんどん大きくなり、バッハ的な感じもして、日常と形而上の世界を行き来して演奏はどんどんと深層にはいっていきます。さいごは本当に感動しました。

その一方で、ルケシーニピアノの演奏とその音量感覚には疑問を感じました。ベートーヴェンのヴァイオリンソナタやチェロソナタの本来の主役は、ピアノです。ピアノソナタ、チェロ伴奏付きと言った方が正しいほどです。アルゲリッチの一連の演奏やへブラー、最近ではピリスの演奏を聴けば解るように、ピアノが主導しなければならない場面があります。変幻自在に音量も音色も変える、ブルネロの闊達で卓越した演奏と並ぶと、今回のピアニストでは役不足だと思いました。音色が重く、切れもないからです。

フーガの後のアンコールは、バッハ:コラール前奏曲「主イエス・キリストよ、われ汝を呼ぶ」でした。どこか宇宙的な次元まで感じるこの曲を演奏するにふさわしい祈りで、演奏会は終わりました。チェロには大満足ですね。どこか、音量感の合わないピアノの演奏は、合わない老眼鏡で物を見ている感じがありましたが。

お誘いいただいたBellwoodさんには大感謝です。感想戦を繰り広げるいつもの西洋居酒屋では、一段上のワインを奮発して、感謝の意を表しました(笑)。

まだ10月だというのに寒い日で、屋外のテーブルのそばでは、熱いガスバーナーの炎が燃えていて、その熱波がメルボルンの公園の炎を思い出しました。今日の演奏も熱い思いを感じることが出来てとても良かったです。これから向かうだろう、長く寒い冬に向けての良い準備にもなりました。


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