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Channel: GRFのある部屋
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演奏会でのピッチについて

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紀尾井ホールで、シンフォニエッタの演奏を聴いているとき、オーケストラのバランスが揃う揃わないという話になりました。後半になると楽器が暖まり、ピッチが幾分上がるという話を、九月の演奏会のあとの感想戦で話しをしました。私の感じでは、前半と後半では、1Hz近く上がったような感じがすると言ったのです。前半は弦楽器と木管楽器のピッチが違うように感じました。関係者に実際に聴いてみましょうと言うことになり、この間の演奏は、前半と後半でピッチが上がったのではと聴いていただきました。ところが、両方とも442Hzに合わせてあるという当たり前の返事を頂きました。それは、そうなのですが、たとえば前半は、0.5Hzぐらい基準より低く、後半、管楽器が暖まってきてからは、逆に0.5Hzぐらい高かったのではと思っていました。

テープのファイル化をしていると、実況録音の音源も沢山あります。演奏開始の前に「A」の音をオーボエが出し始めて、全員が音合わせをしている音が入っています。その音を聞いていても、演奏者によってピッチが違って聞こえます。確かめる為に、KORGのチューニング用のクロマティックチューナーを求めて、実際のピッチを計って見ました。すると、デジタルコンサートホールで聴けるベルリンフィルの音は、443Hzでした。

アメリカのオーケストラは、440Hzで、ウィーンやベルリンは444〜445あると言われています。実況録音のテープがあるので、計って見ますと、マゼール・クリーブランドは、やはり低く440Hzでした。また、コーリン・デービスが振ったアムステルダムコンセルヘボウは、444Hzまで上がっています。カラヤン・ベルリンフィルの時代は、445Hzが多いようです。この差は大変大きく、アメリカのオーケストラは、とても重厚に聞こえますし、ヨーロッパのオーケストラは、切れ味良く聞こえるのです。

同じくブレンデル・レヴァイン・シカゴの皇帝は441Hz。同じ曲をポリーニ・ベーム・ウィーンフィルだと、445Hzまで上がって聞こえます。最近愛聴している、ジュリーニ・ウィーンフィルのブラームスは、やはり445Hzのピッチですね。60年代初頭のDECCAのカラヤン・ウィーンフィルは446Hzまで上がっているように思えます。華麗な響きはそこから来ているのかもしれません。

サントリーホールでも、シカゴのオーケストラは、とても重厚に聞こえます。440Hzの響きなのでしょう。ベルリンより、3Hz違うのですから、当然と言えば当然なのですが、何故違うように聞こえるかは、実は大変奥深い理由を秘めています。サントリーホールでは公式には、442Hzにあわせてあると言われていますが、計って見ると外国からのオーケストラは、ほとんど、443Hzでした。

440Hzの基準音に比べて、5Hzの違いは、0.1%の違いです。その差は、平均律の音階と純正律の音階の差ぐらいですね。純正律でののハーモニーは濁りが無く、打ち消しもしませんので、和音がピッタリ合うと、その楽器だけの音色だけではなく、とても美しい音が聞こえるときがあります。今回の切っ掛けとなった紀尾井シンフォニエッタのオーボエとクラリネットが、ハモったとき、演奏していないはずのフルートの音色が聞こえてきました。それぞれの楽器がピッタリと調音があったとき、聞こえてくる奇跡のような感覚です。その木管楽器に、弦楽器の音階があったとき、交響楽の意味合いが発揮され、作曲家の頭の中に鳴り響いていたであろう、理想のハーモニーが会場に響き渡るのです。演奏している方も演奏家冥利に尽きる瞬間だと思われます。

シューベルトの歌曲、たとえば『美しき水車小屋の娘」の中でも、何回も転調がされ、林の中に差してくる木漏れ日の色調や影のように曲の雰囲気が微妙に変わります。その、歌手とピアノとの陰影の深さと厳しさに、シューベルトの曲作りの妙を見るのですが、例えば未完成のハーモニーを支える、コントラバスのピッチが、変わるとキャンバスの色が変わるように、曲の基本から解釈が変わるのです。

440Hzと445Hzの音楽の差は、北欧と南欧の差の様に大きな距離が存在すると思います。生の演奏会の醍醐味は、その演奏会のなかで演奏する各楽器の奏者が、同じ目標に向かって足並みを揃えた瞬間から、音楽が一人歩きするのです。その揃う瞬間に居あわせる喜びが、演奏会の楽しみの一つでもあると思います。


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